- 0. はじめに
- 1. そもそも任意整理とは
- 1-1. 任意整理の基本的なしくみ
- 1-2. 任意整理を行うメリット
- 2. 任意整理の対象になる借金
- 2-1. クレジットカードの残債
- 2-2. 消費者金融のキャッシング
- 2-3. 銀行による融資
- 2-4. 通信料や家賃の未払い金
- 2-5. 個人間の借金
- 2-6. ギャンブルによる借金
- 3. 任意整理の対象外となる借金
- 3-1. 税金(所得税・住民税など)
- 3-2. 社会保険料(国民健康保険・国民年金保険)
- 3-3. 公共料金(電気・ガス・水道)
- 3-4. 損害賠償(慰謝料・養育費)
- 3-5. 罰金・反則金
- 4. 慎重な判断が必要なケース
- 4-1. 住宅ローン
- 4-2. 奨学金
- 4-3. 保証人がついている借金
- 4-4. 所有権留保特約がある借金(自動車ローンなど)
- 5. 任意整理を検討すべきタイミング
- 5-1. 借金総額が年収の3分の1を超えた
- 5-2. 返済のために借り入れを繰り返している
- 5-3. 利息分しか返済できていない
- 6. 借金問題は早期対応と手続きの選択が重要
0. はじめに

債権者との交渉により、借金返済の負担軽減を目指す任意整理は、裁判所を利用する自己破産や個人再生に比べて手間が少ない手続きです。
しかし、すべての借金に対して任意整理を行えるわけではなく、手続きの対象外となる借金もあるため注意しなければなりません。また、任意整理の対象となるものの、手続きを進めるかどうか慎重な判断が求められる借金もあります。
このコラムでは、債務整理の中でも、任意整理の対象となる借金と対象外の借金、手続きを進めるか慎重に判断するべきケースなどについて、詳しく解説します。
1. そもそも任意整理とは
任意整理とは、借金問題の解決を図る債務整理の一種で、債権者との交渉を通じて借金の減額や返済期間の延長を目指す手続きです。消費者金融や銀行からの借り入れのほか、個人間の借金、さらにギャンブルが原因の借金も任意整理を行うことができます。
自己破産のように、借金の返済義務が消滅するものではありませんが、手続きにかかる負担が比較的軽いため、借金問題の早期解決を目指したい方におすすめです。
まずは、任意整理の基本的な仕組みやメリットなどについて、詳しく解説していきます。
1-1. 任意整理の基本的なしくみ
任意整理は銀行や消費者金融などの債権者に対し、利息カットや返済期間の延長などを求める手続きで、返済の負担軽減が期待できます。ただし、自分で債権者と交渉しようとしても応じてもらえないケースが大半なので、弁護士などの専門家に依頼することが一般的です。
任意整理の依頼を受けた弁護士は債権者に受任通知を送付し、債権者が通知を受け取ると督促や取立てがストップします。その後、弁護士は債権者との交渉を行い、将来発生する利息のカットや返済条件の見直しを求めます。
交渉を通じて現在の債務額を確定させたうえで、毎月の返済額を抑えるために3年から5年ほどの長期間での分割返済を提案します。
また、長年にわたって借り入れをしていた場合、法律の上限を超えた利率による利息を支払っていた可能性があります。上限を超えた分の利息は、過払い金として返還を請求することができます。
1-2. 任意整理を行うメリット
債務整理のうち、裁判所を利用する自己破産や個人再生は、数多くの資料を集めたり、裁判所と何度もやり取りしたりするなど煩雑な手間がかかります。一方、債権者と直接交渉する任意整理は、比較的スムーズに借金問題の解決を目指せるというメリットがあります。
ほかにも、任意整理には次のようなメリットがあります。
- 借金返済の負担軽減が期待できる
- 債権者からの督促がストップする
- 家族や勤務先にバレにくい
- 手続きの対象を選び、財産を手元に残せる
手続き後も借金を返済できる安定した収入がある方や、手続きにかかる費用や期間を抑えたい方、家族や職場に内緒で債務整理をしたい方などにとって、最善の選択肢になり得るでしょう。
2. 任意整理の対象になる借金
任意整理の対象となる借金は、主に金融機関や消費者金融からの借入れです。代表的な例として、クレジットカードの支払いが済んでいないお金(残債務)や、消費者金融のキャッシング、銀行のローンなどが挙げられます。
ほかにも、通信料や家賃の未払い金、家族や知人・友人からの借金、ギャンブルが原因の借金なども対象となります。
2-1. クレジットカードの残債
クレジットカードのショッピング枠やキャッシング枠を利用し、未払いとなっているお金を残債務と呼び、任意整理の対象として最も一般的な借金のひとつです。リボ払いによる高金利の借入れも対象となります。
支払い回数や金利によっては、任意整理による利息カットの効果が大きくなる可能性があります。
2-2. 消費者金融のキャッシング
消費者金融からのキャッシングも、任意整理の主要な対象です。CMで見かけることがある大手消費者金融はもちろん、いわゆる「街金」と呼ばれるような小規模な消費者金融からの借り入れも手続きが可能です。
消費者金融からの借り入れについては、すでに触れたとおり、過払い金が発生していれば、返還してもらったうえで残りの債務に充当し、元金を減らせる場合があります。過払い金の返還の条件については、取引期間や時期を確認したうえで金融機関と交渉する必要があります。
ただし、法律の範囲内の金利を設定している金融機関が大半なので、長年にわたって借り入れをしているケースを除き、過払い金が発生している可能性は低いでしょう。
2-3. 銀行による融資
銀行の融資全般も任意整理の対象です。対象となるものには、キャッシング商品のひとつである銀行系カードローン、教育ローンや自動車ローンなどの目的別ローン、そのほかのさまざまな目的で利用されるフリーローンなどがあります。
もちろん、銀行系クレジットカードのショッピング枠やキャッシング枠の利用分も任意整理できます。
注意したいのは、銀行との取引がある場合、任意整理を行うと同一の銀行にある預金口座が凍結される可能性がある点です。任意整理を行う前に、対象となる銀行とは別の銀行に口座を開設し、給与振込先を変更しておくなどの対策が求められます。
2-4. 通信料や家賃の未払い金
通信料や家賃の未払い金も、状況によっては任意整理の対象となる可能性があります。携帯電話の料金(通信料や端末代金)やインターネットプロバイダの料金、賃貸住宅の家賃などの滞納が該当します。
とくに、滞納によって強制解約された後の一括請求分や、債権回収会社に移行した債権は、任意整理の対象として検討される場合が多くみられます。もっとも、これらの債務は生活に直結するものが多いため、任意整理を行うかどうか慎重な判断が必要です。
2-5. 個人間の借金
個人間の借金も、任意整理の対象となる可能性があります。家族や親族、友人・知人のほか、勤務先からの借り入れなどが該当します。
ただし、個人間の借金には特有の注意点があります。
たとえば、法的な契約書を作っていなかったり、利息を明確に取り決めていなかったりすると、任意整理の手続きをスムーズに進められない可能性があります。また、親しい人からの借金を任意整理の対象とすると、人間関係がこじれる原因になるかもしれません。
2-6. ギャンブルによる借金
自己破産の場合、ギャンブルが原因の借金は「免責不許可事由」にあたるため、返済義務の免除が認められない可能性があり得ます。もし認められたとしても、手続きにかかる手間や負担が大きくなってしまいます。
一方、任意整理であれば借金の原因が問われないため、ギャンブルによる借金も手続きの対象となります。たとえば、パチンコ・スロットなどの遊技や、競馬・競輪などの公営ギャンブルによる借金などが該当します。
ただし、任意整理で返済の負担が軽減された結果、ギャンブルを利用できる余力が生じ、結局は手続き前よりも借金が増えてしまうケースが少なくありません。任意整理を行う際は、手続きの完了後に借金を繰り返さないための対策も併せて検討することが大切です。
3. 任意整理の対象外となる借金

任意整理はすべての借金を対象にできるわけではありません。公的な債務や法的な性質を持つ特定の債務は、任意整理の対象外となる場合があります。
これらの債務は、債権者が国や地方自治体などの公的機関であったり、法律で特別な扱いが定められていたりするためです。
3-1. 税金(所得税・住民税など)
滞納した税金は任意整理の対象外です。具体例として、国税である所得税のほか、地方税であり市町村が管轄する住民税(市民税)や固定資産税などが挙げられます。
納税が困難であるときは、手続き可能な課税年度について減免の申請を行いつつ、納税猶予や換価の猶予などを検討することになります。
もし税金を滞納した場合は、早期の対応が必要です。何も手続きしないまま滞納が続くと、国や自治体の権限で突然財産が差し押さえられることがあります。
3-2. 社会保険料(国民健康保険・国民年金保険)
健康保険や年金などの社会保険料も任意整理の対象外です。
これらの滞納に対しては、市区町村役場の担当課や年金事務所などに相談し、減免制度や納付猶予制度の活用を検討しましょう。収入が少ない場合は保険料の減額や免除が認められることもあり、滞納分についても分割納付が可能な場合があります。
社会保険料の未払いを放置しておくことも税金の滞納と同様、自治体などによる差し押えを受けるリスクがあります。
3-3. 公共料金(電気・ガス・水道)
電気・ガス・水道などの公共料金も任意整理できません。支払いに苦しんでいるときは、各供給会社のお客さまセンターなどに連絡し、状況を説明して支払い方法を相談しましょう。
多くの公共料金事業者は、一定の条件下で分割払いに応じています。ほかには、自治体の福祉課に相談し、生活困窮者向けの支援制度を利用する手段も考えられます。
滞納によるライフラインの供給停止は生命にもかかわるため、速やかに相談することが大切です。
3-4. 損害賠償(慰謝料・養育費)
慰謝料などの損害賠償金や養育費も任意整理の対象外となります。これらは不法行為にもとづく債務や、裁判所の判決・和解にもとづく債務などとして特別な法的保護を受けているためです。
特に養育費は子どもの生活に直結する重要な債務であり、支払い義務者の都合で減額や免除はできません。養育費の支払いが難しければ、相手方と直接交渉するか、裁判所に支払条件の変更を申し立てるなど、別の解決方法を模索する必要があります。
3-5. 罰金・反則金
罰金や反則金も任意整理の対象外です。
刑事事件の罰金や、交通違反の反則金、行政処分による過料などは、法律違反に対する制裁として支払うものであり、任意整理による減額などはできません。もし支払いが難しいときは、検察庁や裁判所、警察署などの関係機関に相談し、分割納付が可能か尋ねましょう。
罰則などの滞納が続くと、刑事罰の場合は労役場留置など、さらなる法的措置の対象となる可能性があります。特に罰金については、刑事施設に収容されるリスクもあるため、できる限り早期に対応することが重要です。
4. 慎重な判断が必要なケース
任意整理の対象となる借金であっても、手続きが複雑になったり、特別な配慮が必要になったりするケースがあります。具体例として、住宅ローンや奨学金、保証人付きの借金、所有権留保特約がある借り入れなどが挙げられます。
4-1. 住宅ローン
住宅ローンの返済が困難になっても、自宅を手放したくない場合は任意整理すべきではありません。
ローンを組んで自宅を購入した場合、「抵当権」を設定することが一般的です。もし、ローンに対して任意整理すると、ローン会社は抵当権を行使して不動産を売却できるため、自宅を手放すことになってしまいます。
自宅を手放したくない場合は、住宅ローンを任意整理の対象から外し、ほかの債務のみを対象とする方法が考えられます。
ただし、住宅ローンと同じ銀行のカードローンなどを任意整理したようなケースでは、住宅ローンに対する期限の利益を喪失したとして、一括返済を求められる可能性があるため注意が必要です。
なお、自己破産を選択した場合も、不動産などの財産を処分しなければなりません。自宅を残したまま債務整理を行いたい場合は、住宅ローン特則を利用した個人再生手続きの検討も選択肢のひとつです。
4-2. 奨学金
奨学金を任意整理の対象とすることは可能です。しかし、日本における主要な奨学金の債権者である日本学生支援機構が、任意整理の交渉に応じる可能性は極めて低いです。
また、奨学金はもともと金利が低く、返済期間も長期に設定されているため、任意整理を行うメリットがほとんどありません。仮に任意整理ができたとしても、このあと解説するように、父母や親戚などの連帯保証人が請求を受けることになります。
奨学金の返済が困難な場合は、機関が定める返還猶予や減額返還制度の活用を検討しましょう。
4-3. 保証人がついている借金
契約時に保証人をつけた借金を任意整理する場合、その保証人への影響を十分に考慮する必要があります。借り入れをした本人(主債務者)が契約の内容通りに返済するのが困難になった時点で、保証契約にもとづき保証人への請求が行われるためです。
とくに「連帯保証人」は責任が重く、主債務者の財産を優先して差し押えるよう求める権利などが認められません。実質的に主債務者と同じ立場であり、常に強制的な債権回収を受けるリスクを負っています。
保証人に迷惑をかけないためには、事前に状況を説明し、一緒に対応策を考えることが重要です。
4-4. 所有権留保特約がある借金(自動車ローンなど)
所有権留保特約がある自動車ローンなどの借金も、任意整理が難しいです。所有権留保特約とは、ローンの完済まで所有権がローン会社に留保される契約条項のことです。
このような借金を任意整理すると、自動車などローンの対象物を引き渡さなければならない(これを「引き揚げ」と呼びます)可能性があります。
ローンの対象物を手元に残したい場合は、そのローンだけ任意整理の対象から外すか、引き揚げを見合わせてもらうための交渉が別途必要となります。たとえば、自動車が生活や仕事に不可欠なケースでは、代替交通手段の確保も含めて計画的に対応することが重要です。
5. 任意整理を検討すべきタイミング
借金問題は早期に対処することが重要です。しかし、いつ任意整理を検討すべきか判断に迷う方も多いでしょう。
任意整理は債務整理の中でも比較的デメリットが少ない方法ですが、適切なタイミングで行わなければその効果を十分に得られません。ここでは、任意整理を検討すべき主な3つのタイミングについて解説します。
5-1. 借金総額が年収の3分の1を超えた
借金総額が年収の3分の1を超えると、健全な返済が難しくなる目安とされています。これは貸金業法に定める総量規制の基準でもあり、この水準を超えると新たな借り入れが制限されます。
返済できるか現実的に判断するため、収入・生活費・毎月の返済額などのバランスを慎重に見極めましょう。
家計の見直しでは、固定費の削減や不要な支出のカットを検討しますが、それでも返済が厳しい場合は任意整理を考えるべきです。収支のバランスが悪化しているのを放置すると、返済のために追加の借り入れを繰り返す自転車操業に陥るかもしれません。
5-2. 返済のために借り入れを繰り返している
借金を返済するために別の借金をする自転車操業は、非常に危険な状態です。返済能力を超えた借り入れをしている証拠であり、早急に対処しなければなりません。
自転車操業の危険な兆候として、給料日前に貯金が底をつく、クレジットカードのキャッシング枠を頻繁に利用する、複数の金融機関から借りているなどが挙げられます。
このような状況が続くと、借入先が増えて返済額も膨らみ、返済不能に陥るリスクが高まります。任意整理などを行う必要性が高く、借金がこれ以上増える前に専門家への相談が不可欠です。
5-3. 利息分しか返済できていない
毎月返済しているのに利息分しか返済できておらず、借金の元金(貸し付けを受けたもともとの額)が減らない状況は要注意です。
契約内容や取り引きの明細などから元金と利息の内訳を把握し、元金が減っているか確認するようにしましょう。もし、返済額の大半が利息の返済に充てられており、元金がほとんど減っていなければ、任意整理などを検討したほうがよいでしょう。
6. 借金問題は早期対応と手続きの選択が重要
借金問題を放置すると利息が膨らんでいくだけでなく、滞納が続くと給与や財産などを差し押さえられるリスクが高まるため、早めの対応が必要です。
借金問題の解決に向け、任意整理は有効な手段の一つですが、手続きの対象外である借金もありますし、借金の種類によっては対象から外すことを検討したほうがよい場合もあります。また、借金の残額や収入などによっては、自己破産や個人再生といったほかの手続きを検討したほうがよいでしょう。
弁護士法人プロテクトスタンスは、ご相談者さまの状況やご希望を丁寧にお伺いし、お一人おひとりに最適な解決策をご提案しております。債務整理の効果や生活への影響などに関するご質問がある方は、ぜひ無料相談をご利用ください。