- 0. はじめに
- 1. 法人破産の基本と代表者の立場
- 1-1. 破産申し立て後の会社の取り扱い
- 1-2. 破産する会社と代表者の関係
- 1-3. 法人破産における代表者の役割と権限
- 2. 法人破産によって代表者が負う法的責任
- 2-1. 破産管財人や債権者への説明義務
- 2-2. 財産散逸防止義務
- 2-3. 善管注意義務・忠実義務
- 2-4. 居住制限と引致
- 3. 不適切な対応で刑事責任を問われる可能性もある
- 4. 代表者が会社の債務を引き継ぐケース
- 4-1. 連帯保証人は権利の制限に注意
- 4-2. 無限責任社員も返済義務を負う
- 5. 代表者が債務の返済義務を負った場合の対応
- 5-1. 「経営者保証ガイドライン」の活用
- 5-2. 代表者自身の債務整理
- 6. 代表者自身が自己破産する際のポイント
- 7. 税金・社会保険料や給与・役員報酬の取り扱い
- 7-1. 税金・社会保険料の取り扱い
- 7-2. 給与・役員報酬の取扱い
- 8. 法人破産は弁護士へご相談ください
0. はじめに

大きな債務を抱え、会社(以下、株式会社を想定しています)の経営が困難になった場合、債務も含めて会社を清算する法人破産は、現状を打破するために有効な手段の一つとなるでしょう。一方、「会社が抱える債務は代表者が返済することになるのか」「代表者は会社を破産させた責任を負うのか」など、破産に対して多くの不安があるかもしれません。
原則として、会社の債務が代表者に移ることはありませんが、代表者が連帯保証人となっているような場合は例外です。また、破産手続きを進めるにあたって代表者はさまざまな法的責任を負い、正しく対応しなければペナルティを受ける可能性があります。
このコラムでは、法人破産に対する代表者の責任や、債務を引き継ぐケースなどを詳しく解説します。手続きの中で不適切な行為があると刑事責任に問われるリスクもあるため、ぜひ最後までお読みください。
1. 法人破産の基本と代表者の立場
法人破産とは、債務超過などによって経営を続けられなくなった会社を、裁判所に破産を申し立てることで清算する手続きです。財産や事業をすべて処分するため会社は消滅しますが、債務も消滅させることができます。
裁判所に法人破産を申し立てた後の会社の取り扱いや、代表者の権限などについて説明します。
1-1. 破産申し立て後の会社の取り扱い
法人破産を申し立てて、裁判所が破産手続きの開始を決定すると、会社の全財産は破産管財人の管理下に置かれます。破産管財人とは、破産を申し立てた者の財産を管理・処分する権限を負う人のことで、財産の回収や売却などを行い、得られたお金を債権者へ公平に分配します。
破産手続きが終結すると登記が閉鎖されて会社が法的に消滅し、債権者へお金を配分した後に残った債務も消滅することになります。
手続きにかかる一般的な期間は、申し立て後6か月から1年程度です。さまざまな財産が残されていたり、債権者数が多かったりするようなケースでは、さらに長期化することもあります。
1-2. 破産する会社と代表者の関係
会社と代表者は法律上、別人格として扱われます。そのため会社が破産する場合でも、会社が抱えた債務が代表者に移ることはありません。
一方、代表者は会社の経営に関する権限を喪失します。具体的には会社の財産処分や業務執行などに関する決定権を失い、破産管財人の指示に従う立場となります。
また、裁判所や破産管財人とのやり取りなどをスムーズに進めるため、破産手続き中は裁判所の許可がなければ居住地を離れられないなど、一定の制限を受けます。
なお、破産後に新たな会社を設立して事業を始めることができますが、破産した法人の元代表者という事実は残ります。
1-3. 法人破産における代表者の役割と権限
法人破産において代表者は、まず破産の申し立てに向けた意思決定を主導する役割を担います。取締役会を設置している場合は取締役会を開き、法人破産に対して過半数の合意を得なければなりません。
なお、取締役会で否決された場合や、そもそも取締役会が開催できないケースでも、「準自己破産」という手続きを単独で進めることができます。ただし、通常の破産よりも手続きが複雑になるため、弁護士に相談することをおすすめします。
2. 法人破産によって代表者が負う法的責任
法人破産の手続きを円滑に進めるため、代表者は数多くの法的義務や責任を負います。たとえば、破産管財人への説明義務や債権者集会への参加義務、財産散逸防止義務などです。
適切に対応しなければ損害賠償を請求されたり、刑罰を科されたりする可能性があります。そのため、法人破産を検討する代表者は、自身が負う義務や責任を正確に理解しておきましょう。
2-1. 破産管財人や債権者への説明義務
法人破産において代表者は、破産管財人に対してさまざまな情報を正確に提供する義務を負います。提供する情報の範囲は広範で、会社の財産や債権・債務、取引履歴、経営状況など、破産手続きに必要なすべての情報が含まれます。
また、債権者集会に出席し、破産に至った経緯や会社の現状などを債権者に説明したり、債権者からの質問に回答したりする義務もあります。債権者集会とは、破産管財人が債権者に対して手続きの進捗状況を報告し、残された財産の配分などの重要事項について話し合う会議のことです。
通常、破産手続きの開始決定から数か月以内に第1回目の集会が開催されます。1回で終了するケースもありますが、数か月おきに複数回、開催されることが一般的です。
2-2. 財産散逸防止義務
法人破産を進めるにあたり、代表者は会社の財産を適切に管理し、不当に減少させないよう努める義務を負います(財産散逸防止義務)。
たとえば、特定の債権者にのみ返済する偏頗弁済(へんぱべんさい)は、この義務に反する行為です。破産法の基本理念である「債権者平等の原則」に反するため禁止されています。
また、財産を不当に安い金額で処分する不当廉売なども問題となる行為です。
もし、偏頗弁済や不当廉売を行なったのが破産手続きの開始前でも、破産管財人が否認権を行使することで、行為の効力が否定されます。さらに、これらの行為によって損害賠償を請求される可能性もあるため、財産の管理には十分な注意が必要です。
2-3. 善管注意義務・忠実義務
破産時に限らず、代表者は会社に対する善管注意義務と忠実義務を負っています。簡単に説明すると、会社に損害が生じないよう財産を適切に管理したり、会社の利益のために、忠実に行動したりする義務のことです。
善管注意義務や忠実義務に違反して損害を発生させた場合、代表者は損害賠償の責任を負います。
法令違反などがなく、単なる経営の失敗によって破産に至った場合、善管注意義務や忠実義務の違反には該当しない可能性が高いでしょう。しかし、どのような行為が義務違反となるかについては、慎重な判断が求められるため、弁護士などの専門家へ相談したほうがよいでしょう。
2-4. 居住制限と引致
破産手続き中の代表者は、手続きが終了するまで裁判所の許可がなければ居住地を離れることができません。「居住地を離れる」とは、引っ越しだけでなく旅行なども含まれます。
この制限は、代表者が破産手続きから逃れることを防ぎ、必要な説明や協力を確保するための措置です。さらに、代表者が裁判所の呼出しに応じないようなケースでは、強制的に出頭させる措置(引致)が講じられる場合があります。
3. 不適切な対応で刑事責任を問われる可能性もある
法人破産の手続きの中で、代表者はさまざまな責任や義務を負いますが、適切に対応しないと刑事責任を問われる可能性もあります。
たとえば、破産管財人への説明や、債権者集会への出席において、虚偽の説明をしたり、説明を拒否したりした場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります(破産法第268条)。
また、特定の債権者にのみ返済する偏頗弁済も刑事責任を問われるリスクがあります。刑罰は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方です(同法第266条)。
さらに、「詐欺破産罪」にあたる行為をした場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方という、より重い刑罰の対象になるかもしれません(同法第265条)。具体的には、次のような行為に対し、詐欺破産罪が成立する可能性があります。
- 債務者の財産を隠匿し、または損壊する行為
- 債務者の財産の譲渡または債務の負担を仮装する行為
- 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
- 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、または債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
会社の借金問題を解決するどころか、重い刑罰を科される可能性があるため、破産手続きの申し立て後はもちろん、申し立て前から慎重な行動が求められます。
4. 代表者が会社の債務を引き継ぐケース

すでにご説明した通り、基本的に会社と代表者は別人格として扱われるため、会社が破産しても代表者に債務が移ることはありません。しかし、代表者が「個人保証」(経営者保証)によって会社の連帯保証人となっている場合、会社の破産後は代表者が債務(保証債務)を返済する義務を負うことになります。
個人保証とは、会社が金融機関などから融資を受ける際、経営者などの個人が会社の連帯保証人となることです。
さらに、法人破産をすることで代表者が債務の全額を一括請求されるおそれがあります。
4-1. 連帯保証人は権利の制限に注意
通常の保証人には次のような権利が認められており、債権者からの請求に対抗できますが、連帯保証人には認められません。
- 催告の抗弁権
債権者から返済を求められた際、先に主債務者へ請求するよう主張できる権利です。連帯保証人には催告の抗弁権がないため、主債務者が請求を受ける前でも、返済を求められれば応じなければなりません。
- 検索の抗弁権
主債務者に財産が残っている場合、先に主債務者の財産を差し押さえて返済に充てるよう債権者に主張できる権利です。連帯保証人には検索の抗弁権がないため、主債務者よりも先に財産の差し押さえを受けた際、返済できなければ拒否できません。
- 分別の利益
複数の保証人がいる場合、返済額は保証人の人数に応じた金額に制限されます。連帯保証人には分別の利益がないため、全額の返済を請求された場合は応じなければなりません。
連帯保証人は債権者から返済を求められたら拒否することができないため、会社の債務に対して大きな責任を負っているのです。
4-2. 無限責任社員も返済義務を負う
合名会社や合資会社の無限責任社員は、会社の債務に対して無限責任を負います。そのため、個人保証の有無とは関係なく、会社が破産した場合は社員個人の全財産をもって債務を返済しなければなりません。
なお、合名会社は社員の全員が無限責任社員の会社で、合資会社は無限責任社員と有限責任社員がそれぞれ1名以上いる会社のことです。
5. 代表者が債務の返済義務を負った場合の対応
会社が大きな債務を抱えて破産し、代表者が返済義務を負った場合、個人で返済していくのは決して簡単ではないでしょう。債務の返済が困難な場合の対応として、「経営者保証ガイドライン」の活用や、自己破産など代表者自身の債務整理が考えられます。
5-1. 「経営者保証ガイドライン」の活用
「経営者保証ガイドライン」とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際の経営者保証に関するルールなどを示したものです。法的な拘束力はないものの、経営者や金融機関の自主的な遵守が期待されています。
法人破産を行なった場合、連帯保証人である代表者は、経営者保証ガイドラインの利用により保証債務を整理して、返済の免除を債権者に求めることができます。
経営者保証ガイドラインの活用には、次のようなメリットがあります。
- 通常の自己破産に比べて、より多くの財産を手元に残すことができる
- 信用情報機関に登録されない(いわゆる「ブラックリスト」に載らない)
また、手元に残せる財産については、「華美ではない」という条件があるものの、自宅も処分しないで済む可能性があります。
一方で、次のような点に注意しなければなりません。
- すべての債権者を対象にできるわけではない
- 保証債務の整理に対し、債権者にも経済的合理性がなければならない
- 対象となる債権者の全員が、保証債務の整理に同意する必要がある
経営者保証ガイドラインの活用には、上記以外にもさまざまな要件があるため、保証債務の整理が可能かどうか、弁護士などに相談することをおすすめします。もし、経営者保証ガイドラインを活用できない場合は、代表者自身の債務整理を検討しましょう。
5-2. 代表者自身の債務整理
債務整理とは、借金問題を解決するための手続きで、自己破産や任意整理、個人再生など、複数の種類があります。
- 自己破産
生活に必要な最低限の財産以外をすべて処分して、裁判所に借金の返済義務を免除してもらう手続き
- 任意整理
債権者と直接交渉し、借金の減額や返済期間の延長などを求め、返済の負担軽減を目指す手続き
- 個人再生
返済方法などを説明する再生計画案を裁判所に提出し、借金を大幅に減額したうえで、原則3年(最長5年)で返済する手続き
このうち自己破産は、手続き後に借金を返済する必要がなくなりますが、必要最低限の財産を除き、自宅なども含めてすべて処分しなければなりません。一方、任意整理と個人再生は、財産の処分が不要ですが、手続き後も借金を返済する必要があります。
債務整理のどの手続きを選択するか判断する際のもっとも重要な基準は、債務の総額と返済能力の比較です。
不要な財産を売却するなどして債務の総額を減らしたうえで、今後に見込まれる収入などから返済が可能かどうか冷静に評価し、返済が不可能であれば、代表者自身の自己破産を検討すべきでしょう。
債務整理の選択には慎重な判断が必要ですが、スピーディに対応することも重要です。対応に時間がかかると、債権者が強制執行を申し立てて、代表者個人の財産が差し押さえられる可能性があります。
弁護士に相談することで、債務の総額や収入、財産の状況などから、最善の債務整理を提案してくれます。また対応を依頼することで、スムーズに手続きを進められるだけでなく、債権者からの督促の連絡がストップするというメリットもあります。
6. 代表者自身が自己破産する際のポイント
経営者保証ガイドラインの活用ができない場合や、任意整理、個人再生を進めても手続き後の返済が困難な場合は、法人破産だけでなく、代表者自身も自己破産を進めたほうがよいでしょう。
代表者も自己破産する際は、申し立ての手続きなどを法人破産と一緒に行うことをおすすめします。同じ裁判所へ同時期に申し立てることで、裁判所に提出する書類の作成や、資料の収集などにかかる手間を軽減できるというメリットがあるためです。
また、法人破産と自己破産で同じ破産管財人が選任され、債権者も重複するケースが多いため、手続きや説明の手間も抑えられます。なにより、会社の債務を清算したうえで、連帯保証人としての保証債務や個人の借金も免責となるので、借金問題を同時に解決できるという安心感があります。
一方、法人破産と自己破産でそれぞれ用意する書類や資料も多いため、手続きにかかる手間は大きくなります。
また、弁護士に手続きを依頼する際の費用や、手続きに際して裁判所に納める予納金も、それぞれ必要となります。同時に申し立てる場合は予納金が軽減されるケースもありますが、高額な資金の準備が求められるでしょう。
7. 税金・社会保険料や給与・役員報酬の取り扱い
債務超過に陥るなどして法人破産を検討する段階になったら、税金や社会保険料を滞納したり、従業員の給与、役員報酬などが未払いとなっていたりするかもしれません。これらのお金を支払う必要があるのかどうか、取り扱いを把握しておきましょう。
7-1. 税金・社会保険料の取り扱い
法人破産は会社の法人格を消滅させる手続きであり、会社に対するすべての債権も消滅します。そのため、会社が滞納している税金や社会保険料も消滅し、代表者に納める義務が移ることもありません。
ただし、過去に脱税や悪質な申告漏れなどがあり、「納税保証書」を提出している場合は、滞納した税金を納めるよう請求されてしまいます。また、合同会社や合資会社の無限責任社員は、会社の債務に無限責任を負うため、法人破産後も納税義務が残ります。
さらに、代表者自身が納める税金や社会保険料を滞納しているケースでも注意が必要です。代表者が自己破産することになっても、税金や社会保険料は支払いが免除されない「非免責債権」として扱われるため、支払いを免れることはできません。
支払いが困難であれば、税務署や自治体などに相談しましょう。
7-2. 給与・役員報酬の取扱い
会社に現預金や財産が残っているうちに、従業員の給与や役員報酬を支払いたくても、偏頗弁済に該当するのではないか考える方がいるかもしれません。偏頗弁済は刑罰が科される可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
このうち、従業員の給与については、他の債権よりも優先的に支払ったとしても偏頗弁済には該当しません。
もし、会社の現預金などが底をついており、すでに給与を支払えない場合、従業員は「未払賃金立替払制度」を利用し、独立行政法人労働者健康安全機構から支払いを受けることができます。制度を知らない従業員のために、周知するようにしましょう。
ただし、破産することを従業員に伝えた結果、外部に漏れて債権者とのトラブルに繋がるおそれがあります。破産を伝えるタイミングは十分な注意が必要です。
一方、役員報酬については、給与とは異なり優先的な支払いが認められません。破産管財人の判断なしに報酬を支払うと、偏頗弁済となる可能性があるため注意しましょう。
8. 法人破産は弁護士へご相談ください
大きな債務を抱えた会社が法人破産することになっても、代表者は原則として会社の債務を返済する責任を負いません。しかし、個人保証(経営者保証)によって会社の連帯保証人になっていたり、無限責任社員だったりする場合は、債務を返済する必要があります。
債務の返済が困難な場合、「経営者保証ガイドライン」の活用や、代表者自身の自己破産といった対応を検討しましょう。
また、破産手続き中は、破産管財人への情報提供と説明、債権者集会の出席、会社に残された財産の適切な管理など、さまざまな義務を負います。正しく対応しなければ損害賠償を請求されたり、刑罰を科されたりするリスクがあります。
弁護士プロテクトスタンスでは、法人破産はもちろん、個人の自己破産にも精通した弁護士が在籍しております。借金問題に関する弁護士へのご相談は無料ですので、新しいステップへ円滑に進むための方策を一緒に考えてみませんか。