0. はじめに

自己破産は借金の返済義務が免除される手続きですが、不動産など高価な財産を所有していれば、処分しなければなりません。そして、加入中の保険についても、財産の一部として処分するために解約が必要となる場合があります。
しかし、自己破産したからといって、必ずしもすべての保険を解約するわけではありません。契約の内容や、解約時に戻ってくるお金(解約返戻金)の額によっては、解約を回避することが可能です。
このコラムでは、自己破産手続きにおける保険の取り扱いについて、保険の種類別に詳しく解説します。また、破産後の保険加入などについても説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
1. 自己破産しても保険の解約を回避できるケース
自己破産する際、まずは少しでも返済に充てるため、不動産や自動車といった財産を売却するなどして、得られたお金を債権者に分配します。そして、解約返戻金がある保険も財産として取り扱われ、加入中の保険を解約して解約返戻金を分配することになるのです。
一方、次のようなケースに当てはまる場合、保険を解約する必要がありません。
- 掛け捨て型の保険に加入している
- 解約返戻金の金額が20万円以下
1-1. 掛け捨て型の保険に加入している
掛け捨て型の保険はそもそも解約返戻金がないか、あっても金額はわずかです。そのため、自己破産の手続きにおいて「財産的な価値がない」と判断されるので、掛け捨て型の保険は解約する必要がなく、継続して保障を受けられる可能性が高いと考えられます。
1-2. 解約返戻金の金額が20万円以下
解約返戻金がある保険でも、必ず解約するわけではありません。解約返戻金が20万円以下の場合は、契約を継続できる可能性が高いです。
自己破産をする際、すべての財産を処分するのではなく、生活するうえで必要最低限の財産を「自由財産」として残すことができます。そして、20万円以下の財産は自由財産として扱われるため、解約返戻金が20万円以下の保険も自由財産に該当し、解約を回避できるのです。
生命保険や学資保険などで積立型のプランを選択している場合、契約期間が長いほど返戻金額が大きくなります。破産の手続きを進めるにあたって、どの程度の返戻金が発生しているか、確認するようにしましょう。
また、複数の保険に加入している場合、すべての解約返戻金を合算して評価するため注意が必要です。各保険の解約返戻金が少額でも、合計して20万円を超えると原則として解約しなければなりません。
なお、自由財産として扱われる財産の金額は、裁判所によって異なる場合があります。具体的な金額は、自身が自己破産の手続きを申し立てる裁判所に確認しましょう。
2. 【種類別】自己破産による保険の取り扱い
ここから、自己破産時に解約する必要があるかどうかについて、保険の種類別に解説していきます。複数の保険に加入している場合、解約返戻金の合算額で解約するかどうかを判断するため、確認しておきましょう。
2-1. 生命保険・医療保険
生命保険や医療保険は、解約返戻金の有無と金額によって取り扱いが大きく異なります。
すでにご説明した通り、解約返戻金がない掛け捨て型の保険は解約する必要がありません。一方、解約返戻金が発生する貯蓄型の保険は、返戻金額が20万円を超える場合は原則として解約の対象です。
なお、破産する人(破産者)が保険の契約者であるものの、保険料は両親などの第三者が支払っているようなケースでは、解約が必要かどうか慎重な判断が必要です。専門家である弁護士に相談しましょう。
2-2. 自動車保険
自動車保険は自己破産による影響を比較的受けにくい保険の一つです。
自動車保険には、任意保険(任意自動車保険)と強制保険(自賠責保険)がありますが、どちらも基本的に掛け捨て型なので、解約返戻金が発生しません。
そのため、自己破産をしても自動車保険を解約が不要なケースが大半です。ただし、保険期間が1年などに設定されており、解約日から期間満了までの保険料が返金される場合、返戻金額が20万円を超えれば解約が必要になるでしょう。
2-3. 学資保険
学資保険は子どもの教育資金を準備することを目的とした貯蓄型(積立型)の保険です。
この点、破産者が子どものために契約した保険であっても、解約返戻金は破産者の財産として扱われます。そのため、解約返戻金が20万円以上となる場合、原則として解約の対象となります。
2-4. 火災保険・地震保険
持ち家の火災保険や地震保険についても、受け取ることができる解約返戻金が20万円以下の場合は、解約する必要がありません。ただし、破産手続きで持ち家を処分する場合、結局は保険も解約することになるでしょう。
3. 自己破産時に保険を残す方法

自己破産を検討する際、大切な保険を解約せずに残したいと考える方は少なくありません。特に貯蓄型(積立型)の医療保険や生命保険は、将来の生活保障のために重要な役割を果たします。
そのため、解約返戻金が20万円を超える場合でも、次のような手段を講じることで、保険を解約せずに残せる可能性があります。
3-1. 契約者貸付を利用する
「契約者貸付」を利用することで、保険の解約を回避できるかもしれません。
契約者貸付とは、解約返戻金を担保に保険会社からお金を借り入れる制度です。契約者貸付によって借りた金額は解約返戻金から差し引かれるため、解約返戻金が20万円以下になるまで借り入れることで、解約を回避できる可能性があります。
ただし、契約者貸付によって借り入れたお金について、破産を申し立てた裁判所から使途を尋ねられる可能性があります。裁判所から浪費したと判断されれば、自己破産が認められないリスクがあるため、当面の生活費や、弁護士に手続きを依頼するための費用などに使うようにしましょう。一度、弁護士に相談してみるのもよいかもしれません。
3-2. 自由財産の拡張を利用する
すでにご説明した通り、解約返戻金が20万円以下であれば、「自由財産」として扱われるため、解約する必要がありません。この点、裁判所に「自由財産の拡張」を申し立てて、それが認められれば、20万円を超える財産も残すことができます。
自由財産の拡張とは、本来は自由財産ではない財産についても、生活保障の観点から裁判所の判断で自由財産として認める制度です。自由財産の拡張を認めてもらうには、破産手続きの開始決定が確定した日から1か月以内に裁判所へ申し立てて、財産を処分するべきではない理由などを説明します。
たとえば、すでに病気にかかっており保険金によって生活している場合や、現在の健康状態や年齢では解約すると改めて保険に再加入することが難しいようなケースでは、自由財産の拡張が認められるかもしれません。
3-3. 解約返戻金の相当額を用意する
解約返戻金が20万円を超え、自由財産の拡張が認められない場合でも、解約返戻金に相当するお金を用意することで、保険契約を継続できる可能性があります。もし、一度にお金を準備するのが難しければ、少しずつ積み立てていくことになるでしょう。
3-4. 介入権制度を利用する
上述したように、生命保険や医療保険などの場合、被保険者の年齢や健康状態によっては、再加入が困難な場合があります。
この場合、破産管財人などの解除権者が、破産手続きのために保険契約を解約し、解約返戻金を取得しようとしたとき、破産者以外の保険金受取人が解約返戻金の相当額を支払うことにより、解約を回避することが可能です。
これは「介入権制度」と呼ばれ、受取人の権利保護を目的に、2010年の保険法の改正により導入されました。保険契約を維持するためには、保険会社が解約通知を受け取ったときから1か月を経過するまでの間に、解約返戻金相当額を支払うことが必要です。
4. 破産手続き前の名義変更や解約は要注意
自己破産による解約を回避するために保険の名義を家族などに変更したり、解約返戻金を受け取るため、破産手続き前に解約したりすることを検討している方もいるでしょう。
しかし、これらの行為は財産隠しに該当するリスクがあり、裁判所から自己破産による借金返済の免除が認められない可能性が高くなるため要注意です。さらには「詐欺破産罪」という犯罪行為に該当し、10年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科されるおそれもあります(破産法第265条1項)。
「裁判所にバレなければよい」と考える方もいるかもしれません。しかし、破産を申立てると、概ね2年以内の財産の動きを厳しく調査されるため、名義変更や解約を隠せる可能性は非常に低いでしょう。
結婚や離婚といった家族構成の変化などで、どうしても名義変更や解約が必要な場合、弁護士への相談をおすすめします。
5. 自己破産後の保険加入は可能
自己破産した後でも、生活再建のためには適切な保険による保障が重要です。自己破産によって加入中の保険を解約することになった場合、新たに保険に加入できるのか不安に感じる方もいるかもしれません。
この点、破産歴の有無は基本的に保険の加入には無関係なので、破産後はもちろんのこと、破産手続き中であっても保険に加入することは可能です。また、契約者貸付の利用についても、自己破産によって制限されることはありません。
6. 自己破産による保険の解約でお悩みなら弁護士にご相談を
自己破産しても、すべての保険が解約されるわけではありません。解約返戻金がない掛け捨て型の保険や、解約返戻金が20万円以下の場合は、基本的に解約が不要です。
また、解約返戻金20万円超であれば原則として解約が必要ですが、契約者貸付や自由財産の拡張、介入権制度などを利用することで、解約を回避できる可能性があります。
もし、解約が回避できない場合は、任意整理や個人再生といった自己破産以外の債務整理の手続きを検討してもよいでしょう。
弁護士法人プロテクトスタンスは、借金問題に関する数多くのご相談をお受けし、債務整理の手続きをお任せいただいてまいりました。借金の総額や現在の収入、財産などの状況をお伺いし、ご相談者さまのご希望も踏まえながら最適な手続きをご提案いたします。
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