0. はじめに
借金の返済が難しくなり、任意整理を検討しているものの、「借金問題を弁護士に相談するのは恥ずかしい」「弁護士費用を払いたくない」などの理由で、弁護士に相談せずに自分で手続きしたいと考えている人もいるかもしれません。
任意整理を自分で行うことも不可能ではありませんが、複雑な手続きや金融機関との交渉などが必要なので、適切に進められず失敗してしまう可能性が非常に高いことに注意しましょう。
そこで今回のコラムでは、任意整理を自分で行うデメリットや、弁護士に依頼するメリットについて、弁護士が分かりやすく解説します。 任意整理をお考えの方はぜひ最後までお読みください。
1.そもそも任意整理にはどのような手続きが必要?
任意整理とは、金融機関といった債権者と交渉し、利息のカットや長期の分割払いなどを求める手続きです。
任意整理を自分で進めるには、主に以下の手続きを行わなければなりません。
- 取引履歴の開示請求
- 引き直し計算
- 金融機関と交渉・合意
(1)取引履歴の開示請求
金融機関からどのような内容で借入れをしているかを把握するため、取引履歴を入手します。
複数の金融機関との間で取り引きがあれば、すべての金融機関に請求する必要があります。
取引履歴は金融機関との取引内容が記載された書面で、以下のような内容が記載されています。
- 借金の借入日
- 返済日
- 利息
- 遅延損害金
取引履歴を入手するには、取引履歴の開示請求書を作成して金融機関に送付するか、電話により開示を要求しなければなりません。
金融機関には、取引履歴の開示を要求されたら応じる義務があるため、基本的に拒否されることないでしょう(貸金業法第19条の2)。
しかし、開示を拒否する悪質な業者もゼロではありません。
古い取引履歴を廃棄したといった理由から、一部の取引履歴しか開示しないケースもあります。
全ての取引履歴が開示されない場合は、金融機関に改めて開示請求を行う、金融機関の監督官庁に行政処分を求める、訴訟を提起して開示させるといった対応が必要です。
(2)引き直し計算
取引履歴を入手したら、すべての取り引きに対して、引き直し計算を行います。
引き直し計算は、利息制限法にもとづいた金利で、利息を改めて計算することです。
利息の払い過ぎがないかを確認し、借金の正確な残高を把握できます。
2010年に貸金業法と出資法が改正され、金利の上限が20%に定められました。
もし、2010年より以前に借入れをしていた場合、利息制限法の上限である20%を超える金利で利息を支払っていた可能性があります。
20%を超過した利息を支払っていれば、支払った分を残っている借金の額から差し引くことで借金を減額できるほか、借金がゼロになったり、過払い金として返ってきたりするケースがあります。
ただし、引き直し計算を行うには専門的な法律知識が必要で、取引回数が多いと、さらに計算が複雑になります。
引き直し計算が間違っていると、残高を正確に把握できないだけでなく、本当は減額できる借金が減額できなかったり、過払い金の発生を見落としたりする可能性があります。
(3)金融機関と交渉・合意
引き直し計算により正確な借金の残高を確認できたら、金融機関と交渉します。
具体的には、借金の完済までに発生する利息である将来利息や、返済が滞ったことへのペナルティにあたる遅延損害金のカットなどを金融機関に求めます。
また、無理のない金額で返済を続けられるよう、長期での分割払いを求めることも重要です。
交渉がまとまると、金融機関が合意内容を記載した和解書を作成します。
和解書に署名・捺印すれば、合意した内容通りに借金を返済する義務が生じるので、和解書の内容は必ず確認しましょう。 一般的には以下のような内容が記載されています。
- 返済総額
- 毎月の返済額
- 返済の開始日
- 返済期間
- 懈怠約款(けたいやっかん)
懈怠約款とは、合意内容の通りに返済できない場合のペナルティのことです。
たとえば、返済が2回以上滞った場合、残った借金を一括で支払わなければならない、または、遅延損害金を支払わなければならないといった内容などが一般的です。
また、引き直し計算の結果、過払い金が発生することが分かれば、金融機関に返還を請求します。
しかし、満額の返還に応じるケースは少ないので、何割なら返還に応じるのか交渉します。
2. 任意整理を自分で行うデメリット
これまで説明した任意整理の手続きを自分で進めることには、次のようなデメリットがあります。
- 金融機関からの取り立てが止まらない
- 手続きに知識が必要であり、手間がかかる
- 不利な条件で合意する可能性が高い
(1)金融機関からの取り立てが止まらない
任意整理の手続きを進め、金融機関と交渉している最中でも、借金の返済が滞っていれば、返済の督促や取り立てが続きます。
複数の金融機関から借金をしていれば、それぞれから返済を求められる連絡が来るため、1日中その対応に追われることも考えられます。
金融機関となかなか合意に至らず、交渉が長引いた場合は、督促や取り立ても長期化するので、精神的な負担も大きくなるでしょう。
(2)手続きに知識が必要であり、手間がかかる
金融機関との交渉を始めるまでに、取引履歴の入手や、引き直し計算といった様々な手続きが必要です。
取引履歴を入手するには金融機関への連絡が必要なので、取引した金融機関が多ければ、取引履歴を取り寄せるだけで非常に手間がかかります。
取引履歴の開示に応じない、一部しか開示しないような金融機関があれば、再請求や監督官庁への通報、訴訟といった対応が必要で、すべての取引履歴を取り寄せるのはさらに困難です。
また、引き直し計算には専門的な知識が必要で、取引回数が多いほど複雑になり、間違える可能性が高くなります。
特に、一度は完済した業者から改めて借入れたことがあると、1回目の取り引きと2回目以降の取り引きの間に分断があるかどうかで計算方法が異なり、過払い金の金額や残りの債務の金額に差が生じます。
具体的には、それぞれの取り引きを一つの取り引きとして扱う「一連計算」の方が、残債務の金額は小さくなり、過払い金は高額になります。
しかし、「一連計算」になるのか、それぞれの取り引きを別のものとして扱う「個別計算」になるのかの判断には、専門的な知識と経験が求められ、計算方法も非常に複雑なものとなります。
正確に計算できなければ、過払い金を回収できないどころか、返済する必要のない借金まで返済することにもなりかねません。
(3)不利な条件で合意する可能性が高い
金融機関は借金に関する専門的な知識が豊富であり、交渉にも長けているため、同等の知識や経験がなければ対等な交渉は困難です。
そもそも、弁護士などの専門家ではなく、借金をしている人(債務者)が自ら交渉を求めても、多くの金融機関は応じようとしないものです。
また、金融機関は平日の日中に連絡する場合が多く、仕事などで忙しいと交渉がいつまでも進まないことも考えられます。
交渉をうまく進められない結果、将来利息や遅延損害金のカットを拒否する、長期の返済に応じないなど、不利な条件で合意する可能性が高くなります。
過払い金が発生しているケースでは、返還を求めても満額が返還されないどころか、ほとんど返還されない可能性もあります。
さらに、借入先である金融機関が債権回収会社(いわゆるサービサー)に債権譲渡した場合は特に注意が必要です。
借金の返済の延滞が続くと、銀行やローン会社などからサービサーに債権譲渡されるケースがあります。
この場合、交渉相手は金融機関ではなくサービサーになります。
サービサーは文字通り債権回収のプロで、一般的な金融機関よりも豊富な知識と高い交渉力があり、法的手段を含めたあらゆる方法で借金を返済させようとします。
サービサーを相手に自分で交渉しようとしても、まず成功しないと考えた方がよく、適切に対応できなければすぐに支払督促や訴訟を起こされ、給与や財産を差し押さえられるなど、最悪の結果になることも十分に考えられます。
3.任意整理を弁護士にするメリット
自分で任意整理の手続きを進めると、様々なデメリットがあるため、専門家である弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
弁護士に任意整理を任せることで、手続きがスムーズに進み、有利な条件で金融機関と合意できるなど、自分で手続きを進める場合のデメリットを解消できます。
弁護士に依頼する具体的なメリットとして、次のような点があります。
- 取り立てがいったんストップする
- 面倒で複雑な手続きを任せられる
- 有利な条件での合意が期待できる
(1)取り立てがいったんストップする
弁護士に任意整理を依頼すると、金融機関からの督促や取り立てがストップします。
弁護士は依頼者の代理人になったことを伝える「受任通知」を金融機関に送ります。
金融機関は受任通知を受け取った後、債務者に直接連絡して返済を求めることが法律で禁止されているため、取り立てがストップするのです(貸金業法第21条1項9号)。
金融機関からの連絡に悩む必要がなくなり、精神的な負担が軽減されるのは、弁護士に依頼する大きなメリットと言えるでしょう。
(2)面倒な手続きを任せられる
弁護士に依頼すれば、取引履歴を入手するための請求は弁護士が行います。
弁護士の請求に応じないことは考えにくいですし、請求に応じない、一部しか開示しないような場合も弁護士なら適切な対応が可能です。
引き直し計算についても、弁護士ならば正確に行うことができるため、借金の残高を間違いなく把握できますし、過払い金を見落とすこともありません。
また、弁護士ならば時効の成立を見落とさず、時効の援用にも適切に対応できるという点も重要です。
借金を完済していなくても、最後の返済から5年または10年が経過していると、時効の援用という手続きにより、借金の返済義務を消滅させることができます。
ただし、時効の成立前に返済を請求された場合や、返済する意思を示したといった事情(時効の中断事由)があると、時効が成立しない可能性があります。
また、時効が成立する期間が経過した後も、督促を受けて返済の意思を示したような場合、時効の援用を主張することができません。
時効の成立に気が付かず、金融機関からの取り立てに応じたり、交渉を求めたりしたような場合、時効が成立せず、不要になるはずの借金の返済が必要になります。
長く返済していない借金がある場合は、安易に自分で行動せずにまずは弁護士に相談することが大切です。
(3)有利な条件での合意が期待できる
法律と交渉の専門家である弁護士に依頼すれば、金融機関やサービサーと対等以上に交渉し、有利な条件での合意が期待できます。
金融機関やサービサーとしても、弁護士に対して有利に交渉を進めるのは困難であり、交渉が合意に至らなければ裁判で争うことになるため、貸金をいつまでも回収できません。
交渉や裁判に労力や時間をかけるより、合意の条件を譲歩してでも和解しようとすることが一般的なのです。
過払い金が発生しているケースも、自分で返還を求めるよりも高額な返還や早期返還に応じてもらいやすくなります。
弁護士法人プロテクトスタンスは、借金問題について数多くのご依頼をお引き受けしており、金融機関との借金減額の交渉に豊富な実績があります。
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