- 0. はじめに
- 1. そもそもファクタリングとは何か
- 2. 給与のファクタリングの仕組み
- 3. なぜ、給与のファクタリングが闇金なのか?
- 3-1. 貸金業登録をしていないこと
- 3-2. 違法な高金利を設定していること
- 4. 給与ファクタリング業者の勧誘手口
- 5. 給与ファクタリングの深刻な被害
- 5-1. すぐに多重債務に陥ってしまう
- 5-2. 非常に厳しい督促・取立を受ける
- 5-3. 違法行為や犯罪に加担させられる
- 6. 給与ファクタリングの被害は弁護士に相談
- 6-1. 督促・取立がストップする
- 6-2. 給料を渡さなくて済む
- 6-3. 支払金の返還交渉を行う
- 7. 摘発が進む給与のファクタリング
- 8. 借金問題は債務整理によって解決できる!
0. はじめに
新型コロナウィルスによる経済不況により収入が減り、月々の返済や日々の生活が困難になる方が増えています。
このような状況の中、すぐにお金が必要だけれど給料日まで待てない人を中心に「給与のファクタリング」による被害が急増しています。
しかし、給与のファクタリングの実体は、ファクタリングの名前を借りた「ヤミ金融(闇金)」です。
実質的には、給与債権を担保に取られた貸付けに過ぎず、高額な手数料は違法な金利そのものです。
今回のコラムでは、コロナ禍で横行する給与のファクタリングという闇金の最新手口とそのトラブルへの対処法について、弁護士がわかりやすく解説します。
1. そもそもファクタリングとは何か
一般的に、ファクタリングとは、売掛金などの債権を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスのことです。
企業などの利用者にとっては、支払期が到来する前に資金調達をすることが可能となりますし、ファクタリング会社にとっても、割り引いて安く仕入れた債権を満額回収することにより、利益が得られることになります。
ファクタリングは、法的には債権の売買契約にもとづく債権譲渡であり、金銭の貸し借りではありません。
なお、ファクタリングは企業など法人向けのサービスですので、サラリーマンや公務員などの給与所得を得る個人が利用する機会は、本来ありません。
2. 給与のファクタリングの仕組み
給料のファクタリングとは、この仕組みを売掛債権ではなく、給与所得者が会社に対して有する給与債権に当てはめたものです。
すなわち、給与の支給日前に利用者から給与債権を買い取り、業者は買い取った給与額から一定の手数料を差し引いた金額を利用者に渡し、給与の支給日になると、買い取った給料額を利用者から受け取るというものです。
3. なぜ、給与のファクタリングが闇金なのか?
一見すると、給与のファクタリングは手数料を支払った給与の前借りのように思えますが、これがなぜ闇金なのでしょうか。
(1)貸金業登録をしていないこと
給与のファクタリングの最大の特徴は、対象が給与債権であるという点です。
そもそも、給与は使用者から労働者に直接支払われなければなりません(労働基準法第24条1項)。
ファクタリング業者は、給与債権を買い取ったと主張しますが、労働者は給与債権を譲渡することはできません。
譲渡されたはずの給与の受領権限は労働者に留保されたままですし、労働者から使用者に債権譲渡通知が送られることもありません。
そのため、業者は利用者である労働者からしか債権を取り立てることができないのです。
これは、ファクタリングとは名ばかりで、経済的な実態は給与債権を担保にした貸付けと同じです。
実際、金融庁は、業者による給与のファクタリングは貸金業法や出資法に定める金銭の貸付けであるとの見解を示しています。詳細はこちらをご覧ください。
そうであれば、ファクタリング業者は貸金業登録が必要ですが、業者は貸金業登録を行うことなく金銭の貸付けを行っています。これは、無登録業者、つまり、闇金にほかなりません。
(2)違法な高金利を設定していること
ファクタリング業者の手口はこうです。
たとえば、1か月後に支給される10万円の給料を買い取るとして、利用者には手数料として2万円をあらかじめ差し引いた8万円を渡します。
その後、利用者が支給日に給与10万円を受け取ると、業者は給与をすでに買い取ってあるからと、10万円をそのまま渡すよう利用者に要求します。
このとき、業者は手数料の2万円の利益を得ていますが、この金額を利息として計算すると、年利は300%という異常な超高金利となっています。
これは、利息制限法・出資法・貸金業法のいずれの制限も超えており、その実体は闇金なのです。
4. 給与ファクタリング業者の勧誘手口
新型コロナウィルスの影響による休業や失業により苦しい生活を強いられる方が増えており、業者はインターネットの広告やSNSなどを利用し、次のような甘い言葉で勧誘してきます。
「給料の前借りです。借金ではありません!」
「来月の給料を即日現金化できます!」
「借金じゃないから利息はゼロ!」
「無金利でお金をご用意できます」
「スピード対応。審査なしで即日入金できます」
「激甘審査。ブラックでもOKです」
5. 給与ファクタリングの深刻な被害
給与のファクタリング業者の正体は闇金ですので、さまざまな被害を受けますし、深刻なトラブルに巻き込まれてしまいます。
(1)すぐに多重債務に陥ってしまう
一度、給与のファクタリング業者を利用してしまうと、自転車操業の多重債務に陥ってしまいます。
本来の給与満額の生活でもお金が足りなかったのですから、超高額な利息を差し引かれた給与金額では、なおのこと生活が成り立ちません。支払いができなければ、利息は一方的にどんどん膨らみます。
そのため、翌月も利用せざるを得なくなりますし、別の業者にも手を出すようになります。あっという間に、借金生活から抜け出せなくなるのです。
(2)非常に厳しい督促・取立を受ける
給与のファクタリング業者の利用時には、運転免許証や保険証などの写真を送るよう求められたり、勤務先や両親の連絡先などを教えるよう指示されます。
そして、もし支払いが遅れた場合、これらを悪用した非常に厳しい督促や取立を行ってきます。
深夜早朝の電話やメールなどは当たり前です。携帯電話の電池がなくなるまで着信が続いたり、真夜中に自宅にまで強引な取立に来たり、家族にまで大声で恫喝されたり、勤務先にまで電話がかかってきます。
出前や宅配を勝手に頼まれたり、自宅に消防車や救急車を呼ばれたりするなど悪質な嫌がらせを受けることもあります。
(3)違法行為や犯罪に加担させられる
給与ファクタリング業者の実態は闇金であり、闇金は反社会的勢力が行うことの多いビジネスです。
支払いができなくなると、代わりに預金口座の開設や携帯電話の契約をさせられて利用されたり、オレオレ詐欺など特殊詐欺の片棒を担がされたりします。
女性の場合は、風俗店で働かせられたり、性交渉を要求されたりします。
6. 給与ファクタリングの被害は弁護士に相談
このように、給与ファクタリングは違法な闇金ですから、たとえお金に困っていたとしても、絶対に手を出してはいけません。
できるだけ早く関係を断ち切る必要がありますが、闇金を相手に自分で解決を図ろうとすると、被害が拡大するおそれがあります。
給与ファクタリングの被害に遭った方は、早めに弁護士に相談してください。
弁護士に対応を依頼すると、次の3つのメリットがあります。
(1)督促・取立がストップする
依頼を受けた弁護士は、すぐにファクタリング業者に対して督促・取立を止めるよう命じます。
弁護士が介入すると、業者は督促・取立をストップすることがほとんどです。
なぜなら、弁護士は、被害届の提出、刑事告訴、銀行口座の凍結、携帯電話の停止、逮捕への働き掛けなど、警察と連携しながら、さまざまな対応を行うからです。
(2)給料を渡さなくて済む
給与ファクタリングの手数料が、年利換算で利息制限法の制限利率(年15~20%)を超えるときは、その超過部分が無効となります。
さらに、出資法の上限金利(年109.5%)を超えるときは、契約全体が無効となります。
そのため、契約上の支払義務を負うことは一切ありませんので、業者に給与を渡す必要がなくなります。
また、業者からすでに受け取ったお金については、不法原因給付(民法第708条)となりますので、業者への返還義務も否定されます。
(3)支払金の返還交渉を行う
上記の通り、契約は無効となりますので、業者に渡してしまった給与の返還を求めることができます。
現実的には返還交渉は難しいものとなりますが、弁護士は最善の努力を尽くします。
7. 摘発が進む給与のファクタリング
コロナ禍の影響で生活に困窮する人たちを中心に、給与ファクタリングの被害が急増しています。
金融庁、警視庁、弁護士会、国民生活センターなどでは「新手の闇金」であるとして警戒を呼び掛けています。
2020年7月、給与ファクタリング業者が全国で初めて逮捕されたのを皮切りに、全国各地で警察による摘発が進んでいます。
2021年3月に行われた裁判では、給与ファクタリングは貸金業法・出資法等に違反して契約は無効、刑事罰の対象になるとの判決も下されています(東京地裁令和2年3月24日判決)
8. 借金問題は債務整理によって解決できる!
借金返済が原因でお金が必要なのであれば、給与ファクタリングを利用して返済するのではなく、「債務整理」という正当な法的手段があります。
借金の総額を減らしたり、毎月の返済負担を軽くしたり、借金をゼロにしたりすることができます。
弊事務所では、借金問題に強く、闇金への対応や債務整理の豊富な解決実績があります。
弁護士へのご相談は何度でも無料ですので、どうぞ、遠慮なくご相談ください。