- 0. はじめに
- 1. 住宅ローン特則とは何か
- 2. 住宅ローン特則が認められる条件
- 2-1. 個人再生の要件を満たしていること
- 2-2. 本人が所有する居住用の住宅であること
- 2-3. 床面積の半分以上が居住用であること
- 2-4. 住宅資金貸付債権であること
- 2-5. 住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと
- 2-6. 保証会社の代位弁済から6か月以内であること
- 3. 住宅ローン特則を利用するときの注意点
- 3-1. 連帯保証人への影響はない?
- 3-2. 税金などを滞納していない?
- 3-3. アンダーローンやダブルローンになっていない?
- 4. 住宅ローン特則における5つのタイプとは
- 5. マイホームを諦めないためには1日も早く弁護士に相談!
0. はじめに
コロナ禍の影響などにより借金返済が困難となった場合、住宅ローンの支払いも苦しくなり、マイホームを手放さざるを得ない方が増えています。
しかし、債務整理の中でも個人再生という手続きは、「住宅ローン特則」という制度を利用すると、借金を大幅に整理しながら自宅を残すことができます。
今回のコラムでは、住宅ローン特則とは何か、どんな場合に認められるのか、住宅ローン特則のタイプなど、弁護士がわかりやすく解説します。
1. 住宅ローン特則とは何か
銀行などで住宅ローンを組む場合、購入する住宅に抵当権を設定して担保とします。
抵当権とは、債務の担保として提供した物について、他の債権者よりも優先的に弁済を受けることのできる権利です。
住宅ローンは数千万円を何十年もかけて返済していくものですから、支払いの途上では、住宅ローンの返済が困難な状態に陥ってしまうことがあります。
そして、住宅ローンの返済が難しくなると、住宅ローンの債権者は抵当権にもとづき強制的に住宅を売却(競売)し、ローンの返済に充てます。
ローンの返済ができなくなってしまった以上、競売を拒否することはできず、
マイホームを手放すことになってしまいます。
しかし、他の財産とは異なり、自宅は生活の基盤です。自宅を失ってしまうと経済的な更生そのものが図れなくなります。
このような場合に、住宅ローン以外の借金を大幅に減額しつつ、個人再生の手続きのオプション(特則)として認められたのが、住宅ローン特則です。
住宅ローン特則を利用すると、住宅ローン以外の借金が大幅に減額されますので、その分だけ、住宅ローンの返済負担が楽になります。
そして、住宅ローンの返済を継続することで、自宅を手放さずに済むのです。
ちなみに、住宅ローン特則は、住宅ローン特例とも呼ばれますが、正式名称は「住宅資金特別条項」といいます。
2. 住宅ローン特則が認められる条件
住宅ローン特則が認められるためには、いくつかの条件をクリアする必要があります(民事再生法第196条1項各号)。
(1)個人再生の要件を満たしていること
住宅ローン特則を利用できるのは、個人再生のみです。他の債務整理の方法である任意整理や自己破産では利用することができません。
個人再生とは、民事再生のうち個人が利用するものであり、住宅ローン以外の借金の総額が5,000万円以下の場合に、簡易的な手続きで進められるものをいいます。
継続的な収入が見込まれ、再生計画にしたがった返済ができる場合に限り、1/5~1/10まで大幅に減額された借金を、原則3年(最長5年)かけて、分割して返済していくことになります。
(2)本人が所有する居住用の住宅であること
住宅ローン特則を利用できるのは、個人再生を申し立てる債務者本人が所有する居住用の住宅(戸建て・マンションを問わない)に限られます。
この点、本人が現に住んでいることまでは要求されていません。
たとえば、個人再生の手続き開始時点で本人が単身赴任中や転勤などで一時的に住んでいなくても、家族が住んでおり、将来的に自分も住む予定であれば、住宅ローン特則の利用が認められます。
また、所有とは単独所有のみならず共有も含みますので、夫婦で持ち分が共有であっても問題ありません。
ただし、住宅ローン特則は、本人が生活拠点としている建物を維持し、生活基盤を守ることによって経済的な更生を図る制度ですから、次のような場合は対象外となります。
住宅ローン特則の「住宅」に該当しないケース |
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(3)床面積の半分以上が居住用であること
本人が所有する居住用の住宅であっても、建物の床面積の半分以上が住居でなければなりません。
たとえば、個人事業主の方が建物を自宅兼店舗として利用している場合であっても、半分以上が居住用であれば、住宅ローン特則を使うことができます。
なお、親子で二世帯住宅になっている場合は注意が必要です。家計がお互い別であり1階が親世帯、2階が子ども世帯など、明確に居住部分が分かれている場合、本人の居住部分の床面積が半分以上なければ、住宅ローン特則は利用できません。
(4)住宅資金貸付債権であること
住宅ローン特則の対象となるローンのことを「住宅資金貸付債権」と呼び、これは次の条件をすべて満たしている必要があります。
- 住宅の建設、購入、増改築、リフォームに必要な資金の貸付けであること
- 貸付けへの返済は分割払いであること
- 担保のために当該住宅に抵当権が設定されていること
(5)住宅ローン以外の抵当権が付いていないこと
不動産に住宅ローン以外の抵当権が付いている場合は、住宅ローン特則を利用することができないのが原則です(同第198条1項ただし書)。
これは、住宅ローン以外に抵当権が設定されていると、他の借金が返済できなかった場合に抵当権を実行され、住宅を失ってしまうおそれがあるからです。これでは、住宅ローン特則の趣旨が無意味になってしまいます。
そもそも、抵当権は1つの不動産に1つしか設定できないということはありません。たとえば、銀行で住宅ローンを組んだ際に、同じ銀行でカードローンを発行し、そのローン分について抵当権が設定されることがあります。
また、事業用の資金を借り入れる際に、住宅ローン返済中の自宅に抵当権を設定することもありますし、夫婦などで住宅を共同購入する場合は、それぞれの住宅ローンの抵当権が、共通の住宅に設定されます(いわゆる、ペアローン)。
Q.ペアローンとは?
A.夫婦や親子で住宅を共有し、それぞれの持ち分に応じて、各自が別々に住宅ローンを組み抵当権を設定している場合のことです。
このような場合、双方が個人再生を申し立てないと、住宅ローン特則を利用することはできないのが原則です。
ただし、東京地裁や大阪地裁など一部の裁判所では、夫が個人再生を申し立てた場合、申し立てをしなかった妻に住宅ローン以外に借金がなく、個人再生手続きを利用する必要性が乏しいなどの事情を総合的に考慮して、夫単独での住宅ローン特例を認めた裁判例もあります。
(6)保証会社の代位弁済から6か月以内であること
住宅ローンを組む場合、保証会社が保証人になることが一般的です。
そして、住宅ローンの返済が2~3か月程度滞納してしまうと、保証会社が債務者に代わって、債権者である銀行などに対して返済します。これを代位返済と呼びます。
住宅ローン特則を利用する場合、代位弁済から6か月以内に個人再生の手続きを開始する必要があります(同第198条2項)。
逆に言うと、住宅ローンの返済が延滞してしまった場合でも、保証会社による代位弁済から6か月以内に個人再生の手続きが開始されれば、住宅を失わないで済む可能性があるのです。
3. 住宅ローン特則を利用するときの注意点
個人再生では、住宅ローンそれ自体は減額の対象になりませんので、住宅ローンの返済を継続できる、きちんとした再生計画が必要です。その他にも、次のような注意点があります。
(1)連帯保証人への影響はない?
住宅ローンを組んだ場合、連帯保証人を付けているのが通常です。
もし、自己破産する場合、自宅を失う代わりに住宅ローンの返済義務はなくなりますが、連帯保証人に住宅ローンの残債務が請求されてしまいます。
しかし、個人再生において住宅ローン特則が利用できれば、住宅ローンの返済は継続されますので、連帯保証人に影響はありません(同第177条2項)。
また、住宅ローンの債務者だけが個人再生を申し立てればよく、保証人も一緒に個人再生を申し立てる必要はありません。
ただし、再生計画通りに返済が継続できなければ、連帯保証人へ請求され、迷惑をかけてしまうことになります。
(2)税金などを滞納していない?
税金などを滞納している場合、滞納分を回収するための強制執行として、住宅が差し押さえられる可能性があります。
この差し押さえは他の一般債権に優先しますので、個人再生の手続きが開始されても中止されることはありません。
これは、住宅ローン以外の抵当権が住宅に設定されたことと同義であり、住宅の所有権を失ってしまう可能性があります。
そのため、税金などを滞納している、または、滞納により住宅が差押えを受けている場合は、住宅ローン特則を利用することができません。
まずは、滞納分を先に返済することが必要になります。
(3)アンダーローンやダブルローンになっていない?
住宅ローンの残債務が住宅の資産価値を下回っている場合を「アンダーローン」と呼びます。
アンダーローンの差額が大きい場合、つまり、住宅ローンの残債務(1,000万円)よりも住宅の資産価値(2,000万円)が高過ぎる場合、差額が清算価値(1,000万円)として組み込まれるため、個人再生が無意味になります。
個人再生で住宅ローン特則を利用するメリットがあるのは、オーバーローン(住宅ローンの残債務が住宅の資産価値を上回っている状態)のときになります。
また、自宅を買い換える場合など、住宅ローンが残っている状態のまま、新たな住宅ローンを組むことがあります。これは、2つの住宅ローンを同時期に返済することから「ダブルローン」とも呼ばれます。
前述のとおり、住宅ローン特則を利用できるのは、居住用の住宅に限られます。そのため、新しい住宅に住んでいるのであれば、買い換え前の住宅の住宅ローンについては、住宅ローン特則を利用することができません。
4. 住宅ローン特則における5つのタイプとは
住宅ローン特則の再生計画案には5つのタイプがあり、本人の返済状況や返済能力、住宅ローンの債権者との事前協議など、さまざまな事情を考慮して決定されます。
正常返済型 (そのまま型) | 個人再生後もそれまでの約定通りに住宅ローンを返済する、最も一般的な方法です。債権者の同意は得られやすいのですが、住宅ローンの返済に滞納がないことが条件となります。 |
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期限の利益回復型 | 約定通りの返済を継続しつつ、利息や遅延損害金も含めた延滞分を3~5年間かけて返済することで、一括請求されていた住宅ローンを分割払いに再び戻す(期限の利益を回復させる)ことができます。家計上の収支にある程度の余力が必要です。 |
リスケジュール型 (期限延長型) | 利息と遅延損害金を含めた住宅ローンの全額を支払うことを条件に、完済までの支払期限を最大10年間延長(ただし70歳まで)して、月々の返済額を少なくできる方法です。 期限の利益回復型では完済できる見込みがない場合に選択できますが、債権者の協力が得られ難く、再生計画の認可は簡単ではありません。 |
元本猶予期間併用型 | リスケジュール型を基本とし、それでも返済が困難な場合に、元本の返済を一時的に(3~5年間)猶予してもらい、その間は利息だけを支払います。 |
合意型(同意型) | 債権者との合意さえ得られれば、上記4つ以外の方法で、支払金額や支払方法など、返済プランの再設計が可能です。債権者の協力が必要不可欠であり、手続きに時間もかかるため、難易度は非常に高いです。 現実的には、住宅ローンを減額するような合意は困難です。 |
5.マイホームを諦めないためには1日も早く弁護士に相談!
住宅ローン特則を利用した個人再生を行えば、住宅ローン以外の借金が大幅に減額され、結果的に住宅ローンの返済負担が楽になり、ゆとりをもって住宅ローンの返済を継続することが可能になります。
しかし、住宅ローン特則付きの個人再生は、手続きが複雑であり、必要書類も非常に多く、準備が難しいものです。
大切なマイホームを維持するために、自己破産せざるを得ない状況に陥る前に、早めに弁護士にご相談ください。
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