0. はじめに
「時効になれば、借金がゼロになるのか」「返済できずにいた借金を時効で帳消しにできないか」など、弊事務所では、このような相談を数多くいただきます。
実は、カードローンの借り入れや、クレジットのショッピングやキャッシング利用分といった借金にも時効があります。
時効制度を利用することで、借金の法的な返済義務を消滅させることができます。
しかし、時効とは、返済せずに時間が過ぎるのをただ待っていれば、いつか返さなくて済むようになるという制度ではありません。
時効が成立するには条件があり、十分に気を付けないと時効が成立せずに、カウントが振り出しに戻ってしまうこともあります。
今回のコラムでは、借金と時効の関係について、弁護士がわかりやすく説明します。
1. そもそも時効制度とは
時効とは、一定の時間経過によって、法的な権利を取得したり(取得時効)、法的な権利がなくなること(消滅時効)です。今回のコラムにおける時効は、この消滅時効のことを指しています。
法律上、お金を貸した人は、お金を返済してもらう権利を持っていますが、長期間その権利を行使しないと、時効により借金返済の義務が消滅するものと定めています(民法第166条ほか)。
そして、時効が成立するためには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 条件(1) 時効期間が経過している
- 条件(2) 時効の中断(更新)がない
- 条件(3) 時効の援用手続きをする
2. 借金の時効期間は何年?
まず、時効が成立するためには、時効期間が経過している必要があります。そして、時効期間は民法の改正により次の通りに変更されています。
かつては、貸主や債権の種類によって時効期間が異なっていましたが、法改正により区別のない統一的な規定となりました。
また、時効の期間は最後の返済期日あるいは返済した日の翌日から起算しますが、契約内容や個別具体的な事情によって異なります。
2020年(令和2年)3月31日までの契約 | |
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消費者金融、銀行、事業資金の借り入れ | 5年 |
信用金庫、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)、 農協、保証協会、奨学金(日本学生支援機構)、個人の貸主 | 10年 |
2020年(令和2年)4月1日以降の契約 | ||
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主観的起算点 | 権利を行使できると知ったときから | 5年 |
客観的起算点 | 権利を実際に行使できるときから | 10年 |
なお、消費者金融、クレジットカード会社、銀行などの債権者から、債務の返済を求める訴訟を起こされ、判決を取られてしまったとします。
この場合、時効期間は5年であるにもかかわらず、判決確定後からさらに10年が経過しないと時効が成立しなくなります(同第169条1項)。
3. 時効の更新に注意!
次に、時効が更新されていないことが必要です。時効期間が更新されると、それまでの経過が無効となり、また一から時効期間が進行します。
つまり、時効期間がリセットされ、またゼロからカウントされてしまうのです。
そして、時効が更新するのは、次の3つのどれかに該当する場合です。
(1)裁判上の請求を行った場合
債権者が訴訟や支払督促、調停など裁判所を通した請求を行うと、時効期間が更新されます(同第147条)
あくまでも、裁判上の請求である必要があり、口頭での請求や請求書の送付では、時効は更新されません。
ただし、これらの請求は「催告」にあたり、6か月間だけは時効期間の進行が止まり、時効の完成が猶予されます。
(2)差押え・仮差押え・仮処分を行った場合
債権者が、債務者の財産について、差し押さえ・仮差押え・仮処分のいずれかを行った場合も、時効が更新されます。
ただし、住宅ローンの抵当権などの担保を設定していなければ、債務名義を取られていない限り、差し押さえられることはありません。
(3)債務を承認した場合
債務者(借りた人)が、自分に債務があることを認めた場合も、時効が更新されます。
「借金の一部を支払う」「返済を待ってほしいと伝える」「分割で支払う旨の覚書を取り交わす」などを法的には「債務の承認」と呼びます。これを行うと、債権者の権利の存在を認め、返済意思があるとみなされるため、時効が更新されてしまいます。
たとえば、何年も返済していなかった借金の返済を督促された際に、「今回は1,000円で構わないから返済を」と債権者に誘導され、「1,000円なら…」と支払ってしまうと、承認とみなされます。
ところで、時効期間の経過に気付かず、誤って返済した場合はどうなるのでしょうか。
最高裁の判例によると、このような場合、債務者が時効期間の経過を知っているか否かを問わず、債務承認したことにより、時効を援用することはできないとします。
つまり、時効を援用するためには、さらに時効期間の経過を待たなければならないのです。
実際のところ、借金の時効がうまく成立するケースというのは多くはありません。
消費者金融やクレジットカード会社、銀行などの金融機関は、時効の成立が近づくと、それを阻止するために、支払督促を申し立てたり、訴訟を提起したりして、時効を更新しようとしてきます。
また、債権の譲渡を受けたり、回収を委託された債権回収会社(サービサー)から、突然、督促を受けたり、裁判手続きを取られたりすることもあります。
4. 時効の援用手続きとは
時効の援用手続きとは、債務者が債権者に、時効制度を利用すると意思表示することです。
援用されなければ、時効の効力は発揮しません(同第143条)。
そして、時効の援用は、証拠を残すため、配達証明付きの内容証明郵便で「時効援用通知」を債権者に送る方法が一般的です。
普通郵便では、相手が受け取ったという証拠が残らず、書留郵便では相手に送った文書の内容までは証明されないからです。
なお、時効の援用は、時効期間が経過した後に行う必要があります。
あらかじめ「令和〇年△月×日を過ぎたら時効を援用する」など、将来の時効援用を予告しておいても効果はありません。
5. 時効を援用すると信用情報が回復する可能性も
2か月以上の延滞情報は、信用情報機関に事故情報として登録されます。いわゆる、ブラックリスト状態です。
しかし、時効の援用により借金の返済義務がなくなることで、事故情報が削除・訂正されることで、ブラックリスト状態が解消されることがあります。
6. 時効の援用に失敗するリスク
このように、時効が成立するまでには、さまざまな注意点があります。もしも、時効の援用に失敗すると、次のようなリスクも発生します。
(1)債務の承認とみなされる可能性がある
時効期間が経過していなかったり、正しい時効援用ができなかった場合、借金の存在を認めたことと見なされ、逆に、時効が更新されてしまう可能性があります。
仮にそうならなくとも、債権者に時効が成立する危険性があることを気付かせることにもなりかねません。
(2)利息や遅延損害金が借金の残額に加算される
時効を成立させるために借金を返済しないでいると、その間に生じた利息や遅延損害金が加算されます。
遅延損害金は、利息よりも高い金利に設定されているため、これらはかなりの金額となります。
もし、途中で債権者から裁判上の請求を受ければ、結果的に、借金の総額が大きく膨らむことになります。
時効の成立を狙って借金の返済を行わないのは、借金総額が大きく増えるリスクと隣り合わせなのです。
(3)督促・取立が再び始まる
時効期間が経過する理由の1つに、債務者の連絡先や居住地がわからなくて督促が難しかったという債権者側の事情があります。
たとえば、引越し後に住民票を変えず、勤務先も退職しており、携帯電話の番号も変えたような場合です。
しかし、時効の援用通知には自分の連絡先を記載するため、援用に失敗すれば、再び債権者から督促・取立が再開されることになります。
(4)過払い金を請求できる機会を逃す
返済していた当時の利息が利息制限法を超えていた場合、過払い金が発生している場合があります。しかし、過払い金の返還請求権は10年で時効となります。
そのため、時効の成立を優先して時間の経過を待っていると、過払い金の返還請求権が時効で消滅し、過払い金を回収できるチャンスを逃すことがあります。
7. 裁判所から通知が来ても借金は時効になる?
金融機関などの債権者は、時効の成立を阻止するため、支払督促や訴訟などの裁判手続きを取ってくることがあります。
また、時効期間を経過しており、時効の援用ができるにもかかわらず、債務者に時効制度の知識がないことを期待して、裁判手続きを取ってくることもあります。
しかし、慌てる必要はありません。時効期間が経過していれば、支払督促や訴訟の手続きの中でも時効を援用することができます。
訴訟の場合は答弁書や準備書面で、支払督促の場合は督促異議申立書で、それぞれ時効を援用します。
ただし、時効を援用するには、債権を特定し、時効の起算点、時効期間、時効期間の経過、その理由などを法的に主張しなければなりません。
そのため、裁判所から通知が届いた場合には無視や放置をせず、適切に対処しましょう。
もしも、債務名義(確定判決や仮執行宣言付支払督促など)を取得されてしまうと、時効期間は10年に伸長され、給与の差し押さえなど強制執行を受けてしまう危険性があります。
裁判の対応には期日や期限があります。なるべく早めに弁護士に相談するようにしてください。
くれぐれも、焦って債権者(原告)に連絡して、債務の承認だと思われるような言動は行わないでください。時効が更新されてしまう危険があります。
8. 時効については弁護士に相談
このように、時効の成立は非常に条件が厳しく、ハードルが高いのが現実です。債権者の債権管理にミスでもない限り、なかなか時効は成立しません。
また、時効成立や更新の判断には専門的な法律知識と経験が必要です。時効の援用は法律行為ですので、不注意により誤って、間違った手続きをしてしまったとしても救済されません。
そして、時効の成立を狙うにはさまざまなリスクがあり、プレッシャーやストレスなど精神的な負担も強いられます。時効の援用が失敗した場合のデメリットも見過ごせません。
そのため、時効が成立しているのかわからない方、時効を慎重かつ確実に援用したい方は、弁護士に相談してください。
弁護士が代理人として時効援用すれば、手続きをすべて任せられますし、債権者にあなたの現住所や連絡先を知られる心配もありません。
9. 時効により借金を解決できないときは
時効が不成立であった場合、債務整理によって残っている借金の減額・免除を行うことができます。
時効の援用ばかりが借金を解決する方法ではありません。任意整理や自己破産、個人再生という債務整理の手続きによって、返済の負担を軽くすることができます。
債務整理ならば、自分に合った方法で計画的に生活再建を図ることができ、借金問題を根本的に解決できます。
弊事務所では、借金を長期間滞納している方の時効援用や、借金の債務整理などの豊富な実績があります。
借金問題でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。