- 自宅や車などの財産を失いたくない
- 毎月の住宅ローンの返済がきついが、自宅は残したい
- 借金の整理を行いたいが、自宅は残したい
- 借金の主な理由がギャンブルや浪費である
0. はじめに
毎月の借金の返済が苦しく、借金をどうにか減らしたいと思っている方は少なくありません。しかし、「自宅を手放したくない」または「住宅ローンが残っている」などの理由により、債務整理を思い留まってしまうことがあります。
そこで今回は、自宅を所有している場合、特に住宅ローンが残っている場合の借金問題の解決方法について弁護士が解説します。
1. まずは「任意整理」の検討を
最初に検討すべき債務整理の手続きは任意整理です。
任意整理とは、裁判所を通さずに、消費者金融やクレジットカード会社、銀行などの金融機関と話し合いによる交渉で、借金の減額や長期分割払いを求める手続きです。
原則的に、それまで発生した利息や遅延損害金、完済までの利息(将来利息)を免除した元金のみの返済交渉を行います。
ただし、元金を減らすことまでは出来ませんので、減額幅は限定的です。
任意整理の交渉に応じるか否かは、金融機関ごとの判断によりますが、平均で3年以内(36回)、長くとも5年以内(60回)で返済する計画案だと、合意に至る可能性があります。
また、任意整理は、対象となる債権者(金融機関)を選ぶことができます。
そのため、住宅ローンである債権者を、任意整理の対象から外すことで、抵当権が実行されることを防いで、住宅を守ることができることになるのです。
また、自己破産とは異なり、自宅や自動車などの高価な財産を手放す必要もありません。つまり、住み慣れた我が家を手放す必要もなくなります。
任意整理は、対象となる債権者を選ぶことができるというメリットを活かして、
- 住宅ローンの債権者を対象者から外す
- 保証人がついている債権者を対象者から外す
- ローンの残っている自動車を残すため、自動車ローン会社を対象者から外す
といった手続きを選択することもできます。
それ以外にも、裁判所を通さない手続きであるため、自己破産や個人再生など他の債務整理と比べて、本人が作成・準備する書類がほとんどないことから、家族や会社に滅多にバレないという特徴もあります。
住宅ローンがある場合、まずは住宅ローンを除いた借金の総額を調べてください。
次に、毎月の収入から住宅ローンをはじめ、水道光熱費や食費などの必要経費を差し引いた返済原資(※)で、借金の総額を3年~5年程度での返済が可能であれば、任意整理が適しているということになります。
(※)一般的に、毎月の手取りの収入額から家賃や住宅ローンの支払い分を引き、その残りの3分の1前後の金額が毎月無理なく支払える原資です。
2. 債務を圧縮して「個人再生(住宅資金特別条項付)」の検討を
借金の総額が多く、任意整理では返済が難しい場合、(住宅資金特別条項付)個人再生の申し立てを検討することになります。
個人再生(民事再生)とは、裁判所を通じた債務整理の手続きの一種です。
住宅や自動車といった財産を残したまま、再生計画案にもとづいて減額された借金を、3年~5年に分割して返済をしていくことになります。
住宅資金特別条項を利用すれば、住宅ローンの返済は継続し続けますが、自宅は残したままで、他の借金を圧縮して返済していくことができます。
また、自己破産のように、借金の理由による免責不許可事由や手続き中の就労・資格制限もありません。
個人再生の最低弁済基準額
借金(債務)総額 ※住宅ローンの金額は除く | 最低弁済基準 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1,500万円未満 | 借金総額の1/5 |
1,500万円~3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円~5,000万円未満 | 借金総額の1/10 |
個人再生は、住宅ローンを除いて、上記の最低弁済基準の金額を原則3年、最長でも5年で返済する計画を作成できなければ、再生計画が認可されません。
つまり、将来において継続的にあるいは反復して収入を得る見込みが必要になります。
サラリーマンなどの給与所得者であれば問題ありませんが、無職の方にとっては、支払の原資がないと判断され再生計画が認可されない可能性があります。
その他、住宅ローンが残っていれば、無条件に住宅資金特別条項の個人再生が認められるわけではないので注意が必要です。
住宅資金特別条項による個人再生が認められるためには、次の要件を満たさなければなりません。
- 建物の名義人が再生債務者本人であること(共同名義でも可)
- 建物に居住しているあるいは居住する予定があること
※店舗も兼ねている建物の場合、床面積の2分の1以上が居住用であること - 住宅ローンが設定されている、住宅ローン以外の抵当権が設定されていない
- 税金の滞納や他の債権者からの差し押さえの登記がされていない
- 保証会社による代位弁済から6か月が経過していない
最終的に、住み慣れた我が家を手放さなくて済むためには、①上記の要件を満たすこと、②住宅ローンの返済を継続すること、③他の債権者に対して再生計画通りの返済を継続すること、の3つが必要です。
3. 任意整理や個人再生を選択しないとどうなるのか
(1)抵当権を実行され、住宅を失う
住宅ローンを組むと、不動産には抵当権が設定されるのが通常です。
そして、住宅ローン会社は、ローンの支払いを滞納されたり、弁護士から債務整理を開始する通知(受任通知)を受け取ると、残りの債務額を少しでも回収するために、抵当権を実行して住宅を売りに出します(強制競売)。
強制競売が申し立てられると、直ちに退去しなければならないというわけではありませんが、競売で入札者が現れると、いずれ家を退去しなければなりません。
また、強制競売が申し立てられても、競売代金で住宅ローンの残債務が完済できるとは限りません。家の価値より、住宅ローンの残債務が多い場合(オーバーローン状態)には、強制競売で家を失い、競売代金から住宅ローンの残債務を引いた分が借金として残るという二重の苦しさに追い込まれてしまいます。
(2)自己破産を申し立てた場合
自己破産を申し立てた場合、所有している高価な財産は裁判所により売却され、売却代金は債権者へ配当されてしまいます。
裁判所により売却される財産の中には、もちろん不動産も含まれます。住宅ローンがついていない不動産や、住宅ローンを支払い終わった不動産でも、結論は変わりません。
つまり、自己破産を申し立てた場合、裁判所あるいは住宅ローン会社によって不動産が売りに出され、いずれ立ち退きをすることは避けられません。
4. さいごに
住宅を残したまま借金を整理したい方は、弁護士に早めに相談すべきです。
債務整理に着手する時期が早ければ早いほど、選択できる選択肢は増えます。
住宅ローンそれ自体の金額を減額することはできませんが、交渉により、毎月の返済条件を変更することが可能な場合があります。
また、住宅ローン以外の債務を見直すことにより、住宅ローンの返済が円滑になることも少なくありません。